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2026.08.11

かがみの孤城

これまで

辻村深月『かがみの孤城』。学校に行けなくなった中学生七人が、鏡の中の城に集められる話である。読み終えてから四日、登場人物がなぜそこにいるのかを一人ずつ辿っていた。

外にもいた

主人公の安西こころは学校に行けなくなり、フリースクールで喜多嶋先生という女性に出会う。外の世界で、唯一まともに味方をしてくれる大人である。終盤で、この喜多嶋先生が、城で一緒だったアキの成長した姿だと分かる。

城の中に味方がいるのは当たり前だ。不登校の子ばかりが集められているのだから、そこで仲間ができるのは前提でしかない。喜多嶋先生が象徴なのは、唯一味方になってくれる大人が、鏡の外にもいたからである。

みんな弱いのが素晴らしい

城に集められた七人は、全員が学校に行けていない。喧嘩の強い子も、頭のいい子も、超常の力を得る子も出てこない。集められた子たちが、ちゃんとみんな弱いのが素晴らしい。弱いものを弱いまま置いている。

「人を嫌いになっちゃいけないと思ってた」

こころは同級生から一方的に攻撃されている。理不尽で、こちらに落ち度はない。それでも彼女は相手を嫌えない。作中で彼女は、自分が人を嫌いになってはいけないと思っていた、と気づく。子どもの解像度が高い。何かしら絶対性からの脱皮が、大人になるということだ。

嫌えていれば、そこにいなかった

こころの同級生に、東条萌という子がいる。父親の仕事で転校が多く、こころとは短いあいだ友人になる。条件はほとんど同じである。同じ教室にいて、同じ相手を見ている。違うのは、萌の側には人を嫌って軽蔑する回路が働いていることだ。東条萌は、こころにとってのありえたifである。人をちゃんと嫌いになって軽蔑できれば、不登校にならずに済む。

絶対を一つ持っていて、そこから壊れた

こころは「人を嫌ってはいけない」、マサムネは負けを認められない、フウカは母の期待から降りられない。三人とも、何かしらの絶対に固執してしまったところから壊れている。マサムネだって勉強はやってたっぽいし。

いじめっ子も救うから、信用できる

こころが喜多嶋先生について、この人はいじめっ子も救うのだろうけど、だから信用できる、と言う。自分の味方をしてくれるから信用するのではない。誰の味方でもするから信用する。よくわかる。

オオカミ様とリオンとアキは必然

城に子どもたちを集めたオオカミ様の正体は、リオンの姉のミオである。病気で亡くなっている。この奇跡がそもそもミオの病室から始まっていることを思うと、オオカミ様とリオンとアキは必然だ。そのアキと関わることになる子たちも。

本当の主人公はリオンではないか

物語はこころの視点で進む。だが奇跡を起こしたのはリオンの姉であり、最後に城の記憶を保ったまま外へ出るのもリオンである。だってオオカミ様はリオンのお姉ちゃんじゃないか。

接点は、子どもたちが作った

喜多嶋先生と元から接点があったのは、こころと嬉野(と、ミオ)だけである。マサムネとフウカは、こころと嬉野に言われて先生と接点を持った。

スバルが浮いている

アキが喜多嶋先生になり、城の外で子どもたちを支える。城の中ではマサムネが全員に助けを求め、その結果みんなが一度は学校へ行く。嬉野は城との決別のために学校へ行き、こころはフウカへの誕生日プレゼントを買うために外へ出る。アキ以降は、アキを軸にして、みんな相互に助け合っている。その意味だと、スバルが浮いている。

ミオの側に、スバルを選ぶ理由がない

城の子どもたちは、亡くなったミオが弟のリオンのために集めた面々である。だとすると選定の基準はミオ側にあるはずだが、スバルを特別視する理由が見当たらない。その前後にも、不登校の子はいくらでもいる。強いて言えばスバルからアキへの影響はあるが、必然性としては弱い。

忘れても、変わった行動だけは残る

城で過ごした記憶は、外に出るときに失われる。ただし城で影響を受けた結果として変わった現実の行動は残り、記憶の方だけが適当に埋められる。この設定はうまい。

幼さは、相手によっては受け入れられる

嬉野は徹頭徹尾、いじめられる理由のあるズレた変なやつとして描かれている。誰彼構わず好きになり、その好意の示し方が幼い。ただフウカの方の精神も幼いので、他の人には幼稚に見える好意も、フウカになら受け入れられる目がある。アキやこころは嫌がっていたが、フウカは内心悪い気はしていなかった。人間関係は相性ですね、という話である。

強がりから降りられたこと

マサムネは学校に行かない理由を、行かない選択をしているという形で説明し続ける。終盤、彼は全員に助けを求める。マサムネの救いは、みんなに助けを求められたことで、強がりから降りられたことだ。

本当に孤独なのは、二人だけ

七人のうち、いじめや人間関係が原因の子が多いなか、スバルとアキは家庭の側に要因がある。逃げ場が家に無い。本当に孤独なのはこの二人だ。こころは後半にはもう自分より他の人を思いやれていたけれど、アキは終盤で全員を巻き込む形の行動に出る。

謎に強いのがスバル

スバルは家庭環境が最も悪い部類でありながら、城で最も崩れない。リオンはミオに勘付いているから強い。スバルだけは、環境は散々で、自分自身に対してもほぼ執着がなくて、それで強い。

どうしてスバルだったんだろう

四日かけて、スバルをこの物語の因果に繋げようとした。繋がらなかった。マサムネとの関係にこじつけることもできなくはないが、そんなわけないくらいには距離が遠い。ある意味こうも読めるかもしれない。ミオにとって、いちばん救いたかったのはスバルだと。属性そのもので言えば。それでもやっぱり、説明はつかない。